今回は前回に引き続き11月から施行されました『フリーランス保護法(フリーランス新法)』を演劇界に当てはめていきたいと思います。
前回はこちら↓
この通称『フリーランス新法』の「七つの禁止行為」という項目には買いたたきを禁止すると明言されています。
④買いたたき(類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること)
買いたたき・・・売り手の不利な状況につけこんで、相場よりずっと安い値段で買う、という意味になりますが、
これを演劇界でも守るというのは実は単純ではありません。
音響、照明、美術、宣伝などのスタッフさんであればある程度は、このくらいの作業量であるならこのくらいのお値段になりますと決めている所はあるかもしれませんが、
出演者、俳優・声優にあたる立場の人達はその値段を定めていないことの方が多いと思いますし、出演者の相場というのは無いと言って良いかもしれません。
どういうことかというと、
ある人は舞台出演をすれば最低でも100人のお客さんがその人目当てで観に来てくれる、
という人もいれば、
自分が出演しても観に来てくれるのは家族、数人の友達・演劇仲間程度で20人観に来てくれたら良い方・・・こういう人もいるわけです。
チケット代が4000円であれば前者は最低40万円、後者は最大で8万円のお金を動かせることになりますね。
他にもSNSのフォロワー数が5万人の人と200人、どっちが宣伝時の拡散力があるかは一目瞭然です。
このような歴然たる差がある両者に支払われる報酬が同じだ、同等に扱うというのは感覚的にはあり得ませんよね?
そうなると出演者に支払われる報酬というのは「その人、個人が持っている価値で決まる」ので買いたたきかどうかの判断は各々で異なると言えるわけです。これがそう単純ではないと言った理由です。
そうは言っても・・・、
世の中には最低時給という概念があります。仕事が出来ようが出来まいが、最低でも一時間あたりこの値段の賃金を支払われないといけないという決まりです。
これは「雇われている労働者」に適応されるもので、基本的に俳優や声優などの立場の人は個人事業主で雇われている立場では無いので適応はされないのですが、それでも「コンテンツ製作に協力をした」のは間違いないはずなので、その時点で支払うべき最低報酬はあっても良いと思います。
それに小屋入り後の仕込みやバラシ、ダブルキャストのその公演は出番なしの出演者が劇場でのチケット受け付け、席の案内をする・・・この働きって大規模なイベントならイベント制作会社、裏方のスタッフを雇って報酬が出ている作業なので、こういう作業も込みで出演を依頼しているのならその地域の最低時給で支払うのが筋だと思います。特に仕込み、バラシは工事現場と何ら変わらずマジできついので💦
何より大事なのは・・・。
ちゃんと出演者と依頼する側が報酬について、求める仕事について話し合った結果、納得しているかだと思います。
私の周りだと出演が決まってから「チケットノルマがあることを知らされた」という声を3件聞いたことがあります。やはりその人は憤り、困っていました。ちなみに前回の記事でも書きましたが出演者にこのような販売ノルマを課して、達成できなかった分は自腹というのは「購入・利用の強制」に当たる可能性が高いのでこれも禁止行為の一つとして覚えておいた方がいいです。
この演劇界、舞台なり映画なりアニメなりに出演したい人は山ほどいますがそれに対して用意されている出演枠はあまりにも少ないです。
なのでノーギャラでも良いから出演したいという人もたくさんいます。このnoteでも作品出演は「自身の宣伝でもある」と説き無名の最初は広告費と思って報酬なしでも出演するのは有りであると何度も書きました。
私もあまりにも報酬の低さに絶望して、第一線からは退きましたがシアタートラムで上演される予定の作品出演依頼の話が来た時は報酬なんか頭になく、そんな素晴らしい劇場の舞台に立てるなら是非お願いします!と即答しました 笑
声優の場合はアニメ出演の際に報酬は「ランク制」で定められているのが有名ですが、一つの作品の出演を掴み取る大変さの割には報酬は安くてとてもじゃないけど生活できるものではありません。それでも長年そのままなのは、それだけ安くても出演したいという人が絶えないからでしょう。
今や世界的に注目されているアニメですし地上波に自分の声が流れて、名前がクレジットされるだけでもかなり良い宣伝になる効果があります。
と、こんな事情もあるので出演者の人件費はどうしても最低時給以下で安く見積もられがちです。そこから報酬を引き上げるには自分が大物になって、大きなお金を動かせるようになるしかありません。そうすれば態度が変わることでしょう。
そんな強気に出られるのは一握りどころか砂をつまんだくらいの一部の人で、多くの人は作品出演に飢えています。
その中で報酬を決めることになるのであれば、やはり自分が納得して出演しているのか?が大事なんじゃないですかね。
報酬は無し、極端に低くてもその後に繋がる出演なのか、演技・役作りに専念できるならやっても良いなど色々と判断材料はあると思います。
あとはこれまで何回か作品出演の依頼が来た際にギャラの話を挙げたら嫌な顔をされた、みたいなエピソードを取り上げてきましたがこのような相違がないように双方が気を付けるべき点として、
出演者を募集する側は、
こちらのコンテンツは商業目的ではない、もっと正直に話せば予算が非常に少ないので出演者に支払われるギャラはありませんと明示したり、
出演者側も、
このくらいの規模だときっと予算少ない中でなんとかやりくりして作ろうとしているんだろうな、ギャラは期待できないかもとまともな報酬が期待できる・できないの基準を知ることだと思います。
経験上、ギャラが発生するのであれば募集時にいくらと記載されています。
舞台は演劇コンテンツで最も稼ぐのが難しいと言ってもいいので、よほど売れる確信のある舞台でない限りギャラは自身が売ったチケットの枚数の何割か還元、全公演終了時の観客動員数が一定の人数に達したら支払うか決まるなど条件付きや一律の額が決まってない場合が多かったので、予め具体的な金額は提示できないと思った方が良いかもしれません。
演劇の歴史を語る上でよく話題にしましたがこの演劇界は「非商業目的」で舞台を作る「小劇場」「新劇」という界隈があるので、報酬は求めず純粋にお芝居をやりたいだけの集団もあるんだということは理解しておくと良いかもしれません。
今はだいぶ理解が進んで、演劇は売れるためではなく自分の人生を充実するためにやっているなど自覚した者同士が集まって活動していると思います。
その中にいつか売れたい、有名になりたいと思っている人が入ってくると何かしらの揉め事はあるかもしれませんね。
この「フリーランス新法」の概要4番目には、
4 募集情報の的確表示
というものがあり募集時の文章に虚偽内容、誤解させる表現は禁止しております。
お芝居をただやりたい人を集めたいのか、ちゃんとビジネスとして製作完了まで契約を交わすつもりの案件なのかを一目で分かるようにするのもトラブルを防ぐためには有効なのではないでしょうか。
では今回は以上になります。ここまでお読みいただきありがとうございました。
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