【日本アニメの歴史から学ぶ『エンタメコンテンツ』ビジネス】俳優・声優が大きく稼いでいくための答えもそこにあった

演劇コラム

当ブログではその『エンタメ分野』を『ビジネス』として儲けるのは非常に難しいとこれまで様々な視点で述べてきました。

ここでは改めて、
このエンタメ分野で儲けるにはどのようにしていけばいいのか?

をまとめていこうと思います。

人々の娯楽が現代ほど多様ではなかった時代では一つのコンテンツでもそれなりに儲かっていた時期があったかと思われます。

特に家に居ても何も面白い事が無かってのであれば「映画」「舞台演劇」であったり「スポーツ観戦』にお客さんが集中して大盛況だったことでしょう。

現に演劇分野に関わっていた私は、年配の方々から小さい頃は映画館に通い詰めで一日に三本とか映画を観ていた、憧れていた劇団の舞台を初めて観た時は超満員で何とか立ち見で観せてもらったなどのエピソードを聞かせてもらいました。

しかし、その娯楽があまりにも増えすぎて何でもコンテンツになり得てわけが分からなくなってきた現代ではそのような光景を見ること自体が珍しくなってきました。

もはや一本の映画を制作しても、舞台を上演してもお客さんはさほど来ず赤字になるだけ、儲かる見通しが立たない事が多くなったエンタメコンテンツを作るのは一種のギャンブル(賭け)みたいなものになっています。

そんな中で、
ではどのようにして儲けていけば良いのか?

それに似たような条件下の中でそのようなベースを築き上げてきたコンテンツがあります。

それが『アニメ』です。

今では『アニメ』はエンタメコンテンツの中で定期的に大ヒットしたと話題になるカテゴリの筆頭です。

そんなアニメも、もちろん最初から儲かるコンテンツだと認識されていたわけではありません。むしろ当初は大人たちから子供が勉強しなくなるなど嫌われていた存在ですらあったかもしれません。

そんな『アニメ』の人気を日本のみならず世界中にまで波及させるまでにはどのような過程があったのか?

その歴史を見てみると現代でも通じる、いや続いている発想があったことが分かるのです。

日本アニメの原点と言えば『鉄腕アトム』(1963年)

日本のアニメの歴史を語るのであればこの手塚治虫作品『鉄腕アトム』を最初に出さないわけにはいかないでしょう。

この日本アニメの原点とも言うべき『鉄腕アトム』がテレビ放送される時点で、実はアニメをビジネス化させるための戦略と言うのも確立させていったのです。

あまりにも安く引き受けてしまった『鉄腕アトム』・・・。

この鉄腕アトムを一話制作するのにかかった費用は250万円だと言われています。

にも関わらず手塚治虫氏はたったの55万円で引き受けました・・・。
(アニメ制作の事情をご存知の方であれば、あれそんなにアニメって安く出来るっけ?と思われたかもしれませんが、はいこの数字は当時の手塚治虫氏の制作体制であればこのくらいの値段のアニメなら作ることが出来るという前提の下で出した値段です。まともに作ろうと思ったら桁がもう一つ増えることになります。そのよく言えば「低予算ながら良質」本来なら「不本意な削減」をして作ったアニメがまた見せ方として革新的であるという評価を受けることになります)

『アトム』1話の制作費として虫プロが受け取ったのは55万円だった。実際には250万円はかかっており、放送局はもっと出せたというが、手塚がそういう超廉価に決めたのである。普通なら値上げ交渉をするのが手塚の役割のはずだが、手塚は値上げどころか「値下げ」したことになる。

 

かかった費用より大幅に安い値段で引き受けるなんてどういうことだよ・・・と思ったことでしょう😓(引用元の記事ではさすがに安すぎると再協議の結果、百万円プラスの155万円に見直したという説もあると言及あり)

これではいくらクオリティ高い作品を作り上げてもはなから儲けることはできないと確定しております・・・。

手塚治虫氏の頭の中にあった勝算とは?

もちろんだからと言って手塚治虫氏も馬鹿ではありません。そんな中でも儲けることができるという見立てがあったからこの条件で制作をしたのです。

一、テレビアニメ制作の独占を狙っていた。

本当だったら2、300万円かかるのにそれを半分以下の費用で請け負う会社がいたらそんな真似はできないと他者はテレビアニメ制作の参入にはためらうことでしょう。

そんな風に競合相手を寄せ付けない戦略を取ることによって安泰した地位を得ようとしていたのです。

この考えはビジネス的にも間違った戦略ではありません。
先ずはお客さんに商品を触れてもらう、サービスを体感してもらわないことには始まらないということで「無料お試し期間」なるものを設けたり「無料サンプル」を配ったり「基本プレイは無料」という形で現代でもそのような発想は根付いております。

要はただ同然でアニメ制作の仕事を始めたのですね。

ただしこの野望は後にアニメ制作に乗り出す会社が次々と出てきたので上手くはいきませんでしたが、アニメは人気があると目の当たりにしたからこそ名乗り出てきたのではないでしょうかね?

二、他の企業とのコラボ

このアニメ制作にかかった費用をどのようにして回収しようとしたのか?

それが一つに他の企業とのコラボです。

鉄腕アトム』のスポンサーであった『明治製菓』は自社商品である「マーブルチョコ」のパッケージにアトムを印刷して売り始めます。さらに中にはオマケのキャラクターグッズも付けて。(↓それが復刻したニュース記事です。)

「虫ん坊 2012年 2月号」

これが飛ぶように売れました。
これも現代でも続いている他企業とのコラボというやつです。今だったら「ちいかわ」のキャラクターがプリントされた商品を街を、店を歩けば見ない日はないのではないでしょうか?

このように当時の人気キャラクターとコラボすることによって他の似たような商品と差別化することが出来て売り上げを伸ばすことができます。

『鉄腕アトム』はこの様々な企業とのコラボによる『ライセンス料』で儲けることが出来たのです。

またアニメの主題歌を出版物に付けて売ったのも大きな売り上げとなりました。
アニメのOP曲がその作品の世界観に合った『アニソン』というのもその原型はこの時代からあったものです。

これもアニメ制作の方では赤字なんだけど、キャクターグッズ等の売り上げの方で何とか黒字になっているという制作会社があります。それはこの頃から同じだったんですね。

こんな狙いのもと手塚治虫氏はアニメ制作をアホみたいな値段で引き受けたのです。

先ずはボランティアみたいな価格で作品を作る→
その作品が世間に広く認知される、人気が爆発する→
その人気にあやかってキャラクターグッズなどを展開してその稼ぎで制作費回収+大きな儲けとなる・・・。

(※これがアニメ制作費がこんにちまで安く設定されている元凶だと言われていますが、この鉄腕アトムが最後まで55万円(仮)で制作されていたかと言われるとそうではなく途中からまともな制作費が投入されていたそうです。人気が出たのであればより多くのお金が投じられるのと同じ流れだと思います。引用させて頂いた記事ではさすがにそれは言い過ぎだと締めています。個人的にも自身の作品価値を信じて、最初の段階では赤字になるけど徐々に軌道に乗ることを見越しての投資だったと解釈できると思っています。どうやら当時の子供向け番組の制作費の相場に合わせた額が55万円だったそうなので。)

「アニメーターの給料が安いのは手塚のせいである」と雑誌で非難されることがあったが、手塚はこう反論している「しかしね、ぼく個人我慢ならんのはね、こういう声があるんだよ。手塚があのアトムを売る時、べらぼうな安値できめてしまったから、現在までテレビアニメは制作費が安くて苦労するんだと。冗談じゃないよ。」「あの時点での制作費はあれが常識なんで、あの倍もふっかけようもんなら、まちがってもスポンサーはアトムを買わなかったね。そうしたら、テレビアニメ時代なんて夢物語だったろうね。」

というようにご本人も存命中にこう反論しております。
それに手塚プロダクションのアニメーターは倒れるほどの長時間労働は確かにあったが、その分給料も高かったそうですしね。

他企業のコラボやメディアミックスが基本のエンタメコンテンツビジネス

この歴史を見れば分かると思いますが、
何も最初から一つのコンテンツ制作だけで儲けようという気はなかったという姿勢です。

この場合は『アニメ制作』を起点にそこから『他企業商品のコラボ』や『キャラクターグッズの販売』に繋げていったのです。

そもそもこの『鉄腕アトム』も元は『漫画』ですよね。

つまりは、
漫画』を起点に『アニメ化』〜・・・と繋げていったのです。

これまた今でも引き継がれている流れです。
人気のある『漫画』はいずれ『アニメ化』される。そしてその後はグッズ販売など〜と。

漫画が盛んにアニメ化されていったのもやはり『鉄腕アトム』の大ヒットのおかげと言っていいのではないでしょうか?

まだ個人、小規模の組織で制作している漫画や小説であればその媒体作品の大ヒットだけで大きな稼ぎを得られるかもしれませんが、

アニメや映画、舞台など大規模なスタッフが必要のコンテンツだとそれだけの収入で大きく稼いでいくことは難しいです。

だからそこを起点に『グッズ販売』『企業とのコラボ』『映像ソフトの販売』『有料チャンネルに売る』などの展開が必要になっていくということになるのです。

そう考えれば現代で、
『映画』『舞台』『アニメ』など大規模コンテンツを作るならこの他のメディアへの展開はもはや必須であると言えることができると思います。元の始まりがそうだったんですから。

それが無い、薄いコンテンツはいくら良質な作品を作っても厳しいと言わざるを得ないでしょう。アカデミー賞にノミノートされたら話は別ですが。

権利を持っていない立場なら同じくそれを見据えた活動が必須である

この話はあくまで作品の著作権を有している者が儲けるための話です。

アニメーターの給料が安い原因は制作会社にその権利がない場合です。

いくら渾身の作品を作ってもその作品の様々な売り上げがその制作会社に入ってこないのであればそりゃあまともな給料が払えないに決まっています。

『鉄腕アトム』はその作品・キャラクターを使って商売して、その売り上げを享受する権利があったから儲けることが出来たのです。

それはなくただ下請けの立場で仕事を受けているだけではエンタメ分野で安定して生活できるだけの稼ぎを得ることは難しいことでしょう。

それと似たような立場として『出演者
俳優・声優の存在がありますよね。

特に声優は「インボイス制度」導入をきっかけに安すぎるギャラが再びクローズアップされました。

この出演者も出演作品の売り上げがいくらであろうと変わらない報酬、キャラクターを使ってのライセンス商売もできない何の権利もない下請け業者です。

いくら出演作品が大ヒットをしてもそれに見合った報酬や売り上げに応じた金額を貰える権利はないのです。

ここまでの話の流れでいくなら、
この出演者も作品出演だけの報酬では基本的に生活できない、

ことを意味します。少なくと数ヶ月とかちょっとでも仕事が途切れた期間ができてしまったら苦しくなってくる状況だと思います。

ならどうしていけばいい?となったら同じように、
他メディア・企業とのコラボ、展開に持っていくしかないと思います。

ここで私がこれまで主張してきた内容と繋がるわけですね。(参考記事↓)

声優にとってアニメ出演とは仕事ではなく宣伝だった!?

作品出演により上がった『知名度』を利用して他のビジネスに繋げようと提案しているのです。もはや作品出演のギャラは『広告費』のつもりで安くても良いという考え方です。

・それで自身のホームページへのアクセスを増やして『ファンクラブの会員を増やす』

・同時に『音楽活動』もしていているので楽曲を聴いてもらいライブの動員数を増やす、

・『YouTubeチャンネル』に誘導して再生数を増やす、

・作品を観た国民からの好感度が上がったことで『企業からCM出演・コラボのオファー』が来た、

人気作品出演の声優さんを集めて『イベントを開く』、

などを狙っていって大きな報酬を得ていきましょうとしているのです。

作品出演のギャラは安いが、自分の知名度が上がったことを利用して他のビジネスを展開しよう、

というのは・・・、

最初の制作費は安く設定して先ずはアニメを放送することによって作品を広めて、国民の人気を得てから他のビジネスを展開して費用を回収しよう、

あの『鉄腕アトム』の例と本質的には同じことをしていると言えるはずです。

作品出演になると『自分は作品の一部』に過ぎないが、そこを起点にして『自分主体』のビジネスを展開してそこで大きく稼いでいくのです。

この意識があるか、無いかが俳優・声優として安定して稼いでいけるか大きな分かれ目だと思います。

要は作品出演によるギャラをあてにして生活費を稼いでいくつもりなのか、そうじゃないのか?

前者のような意識だと例え主役に選ばれてもそこまで大きな報酬は得られない場合も多いのでショックを受けるかもしれません。後者であればここでベストパフォーマンスをして自分の評価、好感度を上げることに注力して、次の展開を見据えています。

ということで『エンタメコンテンツで大きく稼ぐためには?』というテーマで今回は書いてきましたが、

一つのコンテンツ制作だけで稼ごうと思わず、多数のメディア展開をして稼いでいく、

というのが現代まで続く手法だということになります。

では今回は以上になります。ここまでお読みいただきありがとうございました。

引用・参考にさせてもらったサイト・ページ↓

アニメ業界が激務薄給になった「元凶」と批判も…『鉄腕アトム』を激安で作った手塚治虫の誤算(プレジデントオンライン)

手塚治虫・低額なアニメ制作費の功罪(ウィキペディア)

 

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