『演劇』の楽しさってなんだろう?

演劇コラム

私が演劇の世界へ入ったきっかけは『声優』になりたいからでした。

その声優というお仕事ですが最近では主に『宅録』で声優活動をしている方も目立つようになりましたよね。

名前の通り自宅に録音機材を揃えて自身の声を録音して、依頼者に注文通りの音声データを渡す流れがこの『宅録』です。

これはこれで気軽に、ちょっとした空いている時間でも、本業をやりつつ声のお仕事が出来て便利な世の中になったなと思うわけですが、

私は途中から声優というカテゴリにはさほど興味を無くしてしまい『舞台演劇』の方に力を入れるようになりました。

それはなぜかと言うとタイトルの通り『演劇』の楽しさってなんだろう?と考えた時に舞台こそが一番それを堪能できると感じたからです。

演劇の魅力も色々とあると思いますが個人的には自分だと絶対に言わないような言葉を、これは『演技』だからということで気兼ねなく発することができたり、

他者の人生を自分事のように捉えてその人生を擬似体験できたり、

あとはやはり共演者と『リアルとは全く異なる関係性で交流』することができる、というのがあると思います。

コスプレ』という文化が根付いているように自分ではない誰かに変身したいという願望は誰もが持っていると思うので『演劇』でもそれを可能にしてくれます。

人生』とは一度きりで、『自分』という人生しか歩むことができない中で『演劇』に触れたら役を貰う=『他者の人生を背負う事』を意味するのでなんと演技中は『別の人生を体験する』こともできてしまうわけです。

しかも演劇の台本とは基本的にドラマチックに構成されているので台本の中では自分はヒーローになれたり、悪役になれたり、別世界へと飛ばされたりと自分の人生よりも刺激的な人生が待っています。

これは一度でも体験したらやみつきになる人はいることでしょう。

そして、それを多くの共演者、スタッフ、お客さんと共有して作り上げていく。
そう、最後に色々な人達が関わっていくことで演劇の面白さは頂点に達します。

これらがセットになって初めて『演劇って面白い、楽しいね』となるわけですが、そうなると『声優』というのは必ずしもこれらが全て揃うことはない場合もあります。

特に冒頭で申し上げた『宅録』はどうでしょうか?

自宅で一人で台本を読み上げるということは『他者との交流』をすることで生まれるものはありませんよね。

一度、音声を録音しても「こうした方が良いんじゃない?」とダメ出し、アドバイスする人もそばにはいません。

しかも『宅録』でやってくる依頼内容とはCMのナレーションであることも多いので自分の中で色々と自己完結して台詞を読むことも多いです。

やってみれば分かりますが自分の中で設定やらを何もかも決めて一人で台詞を言うのは時に寂しささえ感じます 笑

やはりせめて反応が返ってくる、フィードバックがないとやり甲斐というものはなかなか感じることは出来ないでしょうが宅録だとそれがない環境。

いくら声のお仕事に憧れているとはいえ、これはなんか違うというか『演技』の面白さが十分に詰まっているとは言い難いということで宅録声優の活動に存在は知っても力を入れることはありませんでした。

とはいえ現実的にアニメやゲームキャラクターの声をあてる仕事よりも、商品説明などのナレーションのお仕事の方が圧倒的に数は多いので、声のお仕事である程度の収入を得たければナレーションがメインになるであろうと思われます。

そこにこだわっている人はナレーション技術は上手くなった方が絶対に良いです。

さらにそのアニメやゲームキャラクターの声を自分が担当するという誰もがやりたがるお仕事でも、実は純粋な演技の面白さを体験できるかと言われたらそうでもありません。

先ほど挙げた演劇の面白さのうち二つは満たしていると思いますが、他者との交流に関しては特にゲームキャラクターの声は『個別に録音することも多い』と知ってからは、演者目線ではちょっとがっかりもしました。

でも、これは制作者目線で言えば出演者を同じ日に一箇所に集めて収録するのは難しいという事情もあると思うのでこうなってしまうのも理解できます。

おそらくこのシーンは互いに共演者の演技を聞きつつ、やり取りをした方が絶対に良いという依頼者の要望でもない限り共演者とリアルタイムで台詞を言い合うということは少なくなっているかもしれません。

それこそ最近だとスマホゲームが主流で、そのキャラクターの個性を表す決め台詞みたいなものさえ貰えたら良い、小規模のゲームだと宅録声優さんに依頼することも多いと思うので余計に他者との交流は重視していない傾向は強まっていると思っています。

他にもコロナ禍が影響して密を避けるためにアニメの収録でも出演者を全員集めず別個で収録する時期もありましたしね。

専門学校では、
「声優って画面を見ながら口に、尺に合わせて台詞を喋るけど、一番大事にしないといけないのは隣に立っている共演者の演技をよく聞いて、台本の世界観に没入して交流しているんだという意識を持つことだからね」

それさえ出来ていたら役の心理と一致して自然と尺に合ってくる、と教わったこともあります(今、振り返ってみるとかなり高度な要求をしていますが😓)

ともかく、演技をする面白さって台詞を噛まずに綺麗に言うとか、かっこよく、可愛く言うじゃなくて他者との駆け引き、交流でしょ?ということを言いたかったのは伝わってきました。

と、純粋に演劇、演技というのを楽しみたかったら他者がいないと始まらない、台本片手に不自由な体勢で演技もしない、画面に合わせる必要もない舞台演劇に辿り着くのは自然だったのかなと思いましたね。

さらにその交流も他のコンテンツと比べものにならないくらいの濃い密度です。

ちなみに映画などのカメラの前の演技だとシーンがぶつ切りになるので何度も演技を止められてしまいますが、舞台なら一度始まってしまえばラストまでノンストップで駆け抜けるので、終わった時の達成感は舞台の方が勝っていると思ってます。お客さんからの反応がダイレクトにくるのも舞台ですしね。

が、繰り返し申しますようにそんなこれぞ演劇の醍醐味だ!と思えるようなお仕事というのはそうそうありません。

自宅での、個別収録でのナレーション、キャラクターボイス収録、企業のプロモーション用の映像、音声案内等どちらかと言えば自身の個性、キャラクターで勝負するもので、他者との交流は期待できないお仕事を数多くこなしていかないとなかなかまともな収入は得られません。

それが自分のやりたかった事なら良いですが、ここまで述べてきたような演劇ならではの面白さを求めてこの世界に入った人はなかなかそんなお仕事は少なくモチベーションを保つのは難しいだろうなとは思います。

宅録なんかは自宅でするお仕事なので、むしろ一人で、家で仕事ができる方が気が楽でいいと、どちらかと言えば他者とあまり関わりたくない性格の人の方が向いているとさえ思います😅

しかし、こういう仕事をやりたい人というのは積極的に誰かと交流したいと思う人の方が多いのが難しいところですね。

自分と同じような考え方の人はやはり演劇は人生を充実させるための手段だと位置付けて、生活をするための主な稼ぎは別のお仕事で得ていく方針の方が長く続けることができるような気はします。

では今回は以上になります。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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