以前こんな記事を書きました↓
この記事は演劇界では「新劇」「小劇場」「商業演劇」なんて言葉があるけど、その違いってなに?という内容なのですがその一つに「商業演劇」以外のジャンルでは舞台を上演することによって多大な利益を得ることは目指していないことが挙げられると書きました。
「商業演劇」はもう読んで字の如く作品のクオリティと同時に利益も可能な限り求めていくわけですが、それ以外の二つではそれよりも俳優が舞台上で演じたい、演出家が思い描くものを表現したい、その気持ちを優先させて舞台を企画しているので利益など二の次なのです。
それに現実問題、このような舞台は劇場のキャパシティが300人以下の劇場で行うことが多いため、たとえその舞台の評判が良くてチケットの売れ行きが良かったとしても劇場のキャパシティの問題で入ってくる収入(この収入とはチケット代による)はかなり限られているという物理的な問題もあるのでもしも演劇の舞台上演で関わった人達全員に働きに見合った報酬を与えるには劇場が小さすぎるのです。
リンク記事ではもしもビジネス的に成功させるには一公演あたり最低500人〜できれば1000人前後の動員が見込めないのなら厳しいと書きました。
このように一般的には「新劇」「小劇場」と言われる公演ではせいぜいこの公演をするにあたってかかった費用を回収できれば大成功と言えて、何かしらの「犠牲」を払って上演しているのです。
ちなみにこの「犠牲」とは主に出演者の人件費です。
昔、観に行った舞台で、観に来てくれたことへのお礼メールが出演者から届いたことがあるのですがそこには、
「今回の舞台は今までの中でも大変、評判が良くてなんと最終的には黒字にもっていくことができました!!」
と書かれていたのですがその舞台を上演した劇団は数年後に解散します・・・。
つまりこの「黒字」と出した数字には残念ながら少なくとも劇団所属の俳優の人件費は含まれていなかったのでしょう。大体の舞台というのは俳優の人件費は基本「0」が大前提で話が進み、個人の宣伝で売れたチケットの合計枚数の何割かを還元するのが常識です。厳しい所だと還元されるのはチケットノルマを達成した以降の枚数からなんという劇団、団体もあるのでこの界隈の俳優の扱いは外から見ればひどい有様です。
ここまでをまとめると「300人以下の小さな劇場で舞台を上演するんだったら俳優側の報酬は求めていけない」と結論を出したくなるところですが、もちろんやり方次第では不可能ではないはずです。
ではその条件とは?考えてみました。
○ 出演者の人数はできるだけ少なくする
はい、先ずはこれです。ここまでの流れで出演者全員にまともな報酬を与えてしまったらやっていけないということなら極力減らしていくしかありません。どこの企業だって人件費はなるべく安く抑えたいと思っているでしょう、それと全く同じ発想です。
そうなると理想は「一人芝居」ってことになりますね 笑 そこまでいかなくてもせめて5人以下で抑えたいところです。
もしも「一人芝居」が出来るならチケット代は5000円、劇場キャパシティ200人くらいの所で一週間10公演ほどやってほぼ満員にできるならそれなりに収入は入ってくるはずです。
全公演の総動員数2000人×チケット代5000円=1千万円のチケット収入が入ってきます。
大体、200人前後が入る劇場の使用料は一日15万円前後で(シアタートラムは約14万円)土日だとちょっと高くなる劇場もありますが10公演+仕込み、ゲネプロ込みで200万円前後でいけると思います。劇場使用料を引いてもまだ800万円ほどが残ります!
そしてお次は照明、音響スタッフなどの・・・・、
と、ここまで自分が書いて、そしてここまで読んで誰もが思ったと思います・・・、
たった一人で2000人も動員できるならとんでもない人気俳優じゃん・・・とw
はい、そういうことになりますね( 早くもこの記事のテーマが破綻してしまう・・・!😓)
ただ、もしもこのようなテーマで記事を書く場合は「減らせるところは極力減らす」という意識でいかないと無理ですね・・・💦
やはりどうしても安くするのに限界があるのは管理者側が設定している劇場使用料であったり、相場がある程度決まっている音響、照明スタッフなど専門的な機材が必要で、それを扱える技術を持っている人達です(それでも劇団と仲が良いからという理由で格安で引き受けてくれる人もいますが)
対して出演者の人数はその気になれば可能な限りまで減らすことができます。なら先ずは出演者を減らそうとなるわけです。
逆に言えば小劇場なのに出演者が15人、20人にもなる公演があったとするなら余程、動員が見込めない舞台という見方もできます。それを補うためになるべく出演者を多くすることによって家族・友達・親しい演劇仲間を一人でも多く呼んでもらおうという狙いなのです。
○ 減らせないのなら「増やす」という発想
わたくがこれまで読んできた小説に「ルビンの壺が割れた」という作品があるのですが、
ちょっとだけ内容にざっくり触れますとこんな描写があります。
大学内で活動しているとある演劇サークルの公演を観た会社の社長がその公演をえらく気に入りその劇団のスポンサーになりたいと申し出てきたのです。
そのスポンサー料は5000万円です。
しかも「とりあえず」このくらいでいいか?というニュアンスだったので必要であればもっと出す気があるのでしょう。
・・・ということで「支出」を減らすのには限界があるのなら「収入」を増やせば良いとも言えるわけです。ここからはどうすれば「収入」を増やすことが出来るのか?というフェーズに入っていきます。
その一つに「スポンサーを探す」というのが挙げられるでしょう。考えてみればスポーツチームであればどこも必ずこの「スポンサー」が付いていますし、最近ではオリンピックに出たマイナー競技の選手が資金面の解決を図るためにスポンサー探しに苦労しているという話もよく聞きます。
劇場使用料だけで200万以上かかるのなら千万単位の援助が必要なのは分かると思いますが、そこまで大それたことはしなくても他にはパンフレットを制作してその一部のスペースに広告欄を作り「ここに出稿しませんか?」と募るでも良いでしょう。これは新聞・雑誌などでは当たり前になっていることですよね。
人が多く集まる所、多くの人が読むメディアには広告が例外なくあるのと同じです。やはり別の分野に目を移してもこの「スポンサー」「広告料」というのは大きな収入の要になりますので演劇人も頭に入れるべきです。
一部のチケットを通常価格より高くする
これもお馴染み。前方の席が確約された良い席を通常価格より高くして売られているのはよく見る光景です。大体一万円以上の値段で売られていますかね。これだけでチケット収入の額が跳ね上がります。
小さい劇場であまり前でも後ろでもそんな変わらないのであれば終演後にお目当ての出演者と交流、握手できる、音楽業界では当たり前になっているチェキ、一緒に写真を撮れるなどの特典を付けるのも有りだと思います(こういうサービスで収入を得ている所はコロナで出来なくなったのはかなり痛いでしょうね)
グッズ販売
先ほどパンフレットのスペースに広告を貼る場所を設けると書いたので、パンフレットくらいは作って一部500円〜千円くらいで売りたいですよね。他に作りやすいのは劇団のロゴがプリントされたTシャツなど。
大規模な音楽ライヴだとこのグッズ販売でどれだけ黒字に持っていけるのかその生命線とも言えるのでかなり力を入れて、あれこれアイディアを練って少しでもお客さんにお金を落としてもらうよう努力しています(今、その主流になっているのは何が出るか分からないランダム系のグッズだと思います)
が、この項目に関しては前にも書きましたが音楽ではもうチケット代+グッズを買うという文化がしっかりと根付いていますが、演劇ではグッズなんて求めていないというお客さんが多いからかなかなか「小劇場」「新劇」界隈では今でも根付いていないので難しいところかもしれませんね。「商業演劇」であれば有名、人気俳優を起用するので何かしらのグッズはあると思います。
直ぐに思いつくのはこんなところですが、書いて思ったのは、きっと読んでくれた方もそうですが「こんなの小さな劇団・団体ではできない」というのが思うところではないでしょうか?
小さいところだと俳優がパンフレットの構成を考えたりするでしょうし、それでなくても小道具や衣装も考えないといけないです。それに加えて俳優の本業は「役作り」です。一番やりたい演技が疎かになったら本末転倒です。だからこういう「ビジネス」的なことまで頭が回らず「とりあえず公演はできました」という所までいくので精一杯なんだと思います。
これ以上、先を求めるのであればそれぞれの部門に専属の人を付ける必要があります。でもそうなるとさらに人件費がかさみ・・・ということで「舞台」というのはある程度の資金力がないと俳優の人件費を入れての成功は厳しいと結論付けることができると思います。
あなたはどれだけ報酬を貰えれば満足ですか?
俳優を目指す者にとって演劇・芸能関係の仕事だけで生活したいというのは究極の目標だと思います。
では「あなたはどれだけの報酬を貰えれば満足ですか?」
という問いにはなんて答えるでしょうか?
きっと「仕事の内容による」としか先ずは答えられないと思いますが、やはり舞台で一番負担が大きい主役を演じたのであればかかる労力と拘束期間を考えたら一般のサラリーマンが貰っている月収くらいは欲しいと思うのがわたくしは正直なところです。
ここまでは主に「一人芝居をやる」を例にして話を進めてきましたが、俳優の人件費が一人だけなら劇場のキャパシティを半分の100人にしても、おそらく「一般のサラリーマンが貰っている月収」くらいの報酬は入ってくると思います。
が、そうなると一人の俳優が年間通して立てる舞台本数、と考えた時にそれだとちょっと少ないのではと思い少しでも多く収入が入ってくる設定にしました。
そう、もしも演劇・芸能関係の仕事だけで生活していきたいと思うのであれば、年間通して自分はどれだけの仕事をこなすことができるのか?と考えた時に「そんなには多くはない」と思っておかないとダメです。ましてや舞台など年に2、3本が限界だと思います。
そんな少ない仕事の数の中で芝居だけで生活していきたいを達成するには一本あたりの報酬単価をかなり上げないと厳しいです。
舞台なんて拘束期間が長く、他の仕事をするのは難しいので、そうなった時に、この舞台の出演で「一般のサラリーマンが稼いでいる月収+その数ヶ月分」くらいの報酬は貰わないとそれは達成できないであろうと言えると思います。
「俳優の人件費」に関してはこれといった決められた相場はありません。強いて言うのであればそれを決めることができるのは「あなた自身」かもしれません。
自分が舞台であるなら最低このくらいは貰わないとやりたくないと予め決めておくのです。それがないのであれば舞台企画者は「出来るだけ安く抑えたい」と思っているので向こうの都合の良い条件にさせられてしまうでしょう。
俳優というのは「個人事業主」です。この立場の人は報酬をクライアントとの交渉によって決めることができるので、自分はこのくらいの価値がある!と決めておくのは必要なことなのでしょうね。
終わりに・・・
冒頭のリンク記事では「出演依頼が来た時にギャラの話をしたら嫌な顔をされた」なんて意見を見たことがあると書きましたが舞台を企画、劇場使用料はいくらなのか?各スタッフに払うお金は?何よりこの舞台にかけられる予算は?とそこまで気配りをしている人からしてみれば、どう思っているかは別にして嫌な、渋い顔をしたくなるのは分からなくはないかなと思いました。
俳優も「なんで舞台に出演したのにノーギャラなの?」と不満を言うのも分かりますが、最後に書いたようにでは「自分にはどれだけの価値があるのか?」も考えないで不満を言うのは違うような気がします。
企画をする側の視点で、何より演劇を「ビジネス視点」で見ればなるほどと理解できる部分はこのように多いので、やはり出演者の立場の人も一度、舞台にかかる費用はどのくらいなどの内訳は知っておくべきだと思いますね。
これを知ればこの分野で、俳優として稼いでいくのはどれだけ大変なのか痛感できるはずです。これは映画や、それこそエンタメ・イベント分野全般で同じことが言えます。
では今回は以上になります。ありがとうございました。
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