『小劇場』という言葉の定義について今一度、考えてみる

演劇界に足を踏み入れると、

『小劇場』や『新劇』という言葉と出会うと思います。

それで「その違いってなんだろう?」なんて疑問に思うことも。

「小劇場」「新劇」「商業演劇」・・・この言葉の違いは?

↑こんな記事も過去に書きましたね。

改めてこの違いについて調べてみるとこんな文言が出てきました↓

小劇場演劇(小劇場)は、小さな劇場を意味する言葉ではありません。 俳優中心に結成された新劇に対し、演出家中心に組織された集団であること。 団体客に依存する商業演劇や、演劇鑑賞団体と不可分の新劇と異なり、個人客をベースにした手打ち興行であること。

(fringe.blogより引用)

これにはそういう認識はなかったとハッとなりました。
私のリンク記事では小劇場は小さな劇場(キャパ300人以下)で公演を行う劇団、団体であると定義をしておりましたが、それは違うとここでは書かれています。

演出家が中心となって出来た組織を小劇場と言う・・・、

確かにこの界隈で活動を行なっているのは演出家、劇作家も兼務していることも珍しくないかもしれません、その人物が企画をして、台本も書いて、それで俳優を足りないなら時に外部から集めて公演を行なっている形態が多いかもしれません。

とはいえそんな個人が発起人となれば必然的に資金は乏しく小さな劇場で公演を行うことになるので、そのようなイメージが付いてしまったのか?

私が当時、調べた時も目につきやすい所に表示されているサイト、調べものする際に出てくる定番サイトウィキペディアにも「小さな劇場を拠点に活動をしている〜」って書かれているし勘違いされやすい状態であるのは間違いないだろう。

さらに・・・、

芸術面では演出家の存在、興行面では個人客中心であること――これが守られている限り、劇場が大きくなっても小劇場演劇(小劇場)だと私は思う。

 

と述べられていて劇場の大きさは関係ないと言っております。たとえ商業的に成功していたとしても始点が演出家中心である、個人の客が中心なら変わらず「小劇場」なのです。

「最初は小さな劇場から活動をスタートさせましたが、遂にここまで大きな劇場で公演を行うことができました、これからは商業演劇集団として頑張ります!」・・・とはならないってことですね。

要は「小劇場」を人気がまだない人達が小さな劇場で活動をしている所とは思われたくないと読み取りました。

そもそも・・・もうそんな区別もする必要ないんじゃないかとも仰っています。

しかし、それでも小劇場や新劇にも共通している項目に基本的には「非商業的」であることが挙げられます。

そもそもの発端はそんな「商業主義」に走りすぎている当時の歌舞伎や新派(書生芝居)に反発してもっと骨太で本物の演劇を、既存の型に捉われない新しいものを作ろうぜ!と意気込んで始まってますし。

この感情は今でも原作を蔑ろにして作られているテレビドラマや、別ジャンルから引っ張ってきた有名人を主演にして作られている舞台、映画を観て反発してしまうのと似たようなものだと思います。それで、

じゃあ俺が、私が作るしかない!

となるわけですね。

で、きっとこのような人がいるから今でも俳優の演じる場がある程度は確保されているとも言えます。

もしもいい歳した大人が集まって、就職もせず演劇活動をするなら当然、商業的にも成功してこれで食っていけるくらいにしないとダメだ!という風潮があったのなら「非商業的」が否定されることになるのでそこを度外視した活動はできなくなります。

商業的に成功が見込まれる舞台以外は行われない、すなわちそこから外れた俳優達は舞台に立って演じることは許されない、なんてとも悲しいことになります。

これではまるで「演劇をやる」とはお金持ち、お偉いさん方に気に入られた上級国民以外は出来ない領域になります。それ以外の人はせいぜい演劇部、サークル、どこかの一室を借りてワークショップをやるしかないのか・・・・?

そこに待ったをかけたという意味では「新劇」「小劇場」という界隈が生まれたのは大きいです。

このおかげで私もシアタートラムの舞台に立てたのでしょう。

それでも心に留めておきたいこととして・・・。

 

数多くの俳優の演じたい、舞台に立ちたいという欲求は「新劇」「小劇場」の文化によって満たされている、そうは言うもののその俳優達はここで活動をすることをステップアップのきっかけ、みたいに思わない方が良いかもしれません。

歴史の通りここは「商業主義」とは真逆の思想で出来た居場所です。
芸術としての演劇価値なら達成されているかもしれないが万人受けはしないだろう、ニッチなテーマ過ぎてメジャーにはなれないだろう、そんな作品で溢れています。それでなくても本当にこの作品をお客さんが観れば面白いと言ってくれると思って上演しているのだろうか?と作り手側が気持ち良くなることを優先した舞台もあります。

いくら劇場の大きさは関係ないと言っても大部分は小さな劇場で活動されています。この活動によって観に来てくれるお客さんの人数はせいぜい数百人程度です。

自分という存在を業界にアピールする、届けるという観点では効率が悪いです。テレビ、全国の映画館で上演されている作品に出演している俳優には物理的に敵うわけがありません。

いつか有名になってみせる!という野望を持って活動をスタートさせた人にとって、残念ながらこの界隈は適さない場所と言っていいでしょう。

もしも有名になりたい、売れたいという気持ちが強いなら大手が主催する新人発掘オーディションを受けたり、YouTubeやインスタグラムやらで活動してインフルエンサー目指して知名度上げていった方が良いと思います。

ここはあくまで売れることよりも純粋に演技をしたい、舞台に立ちたい、スポンサーとか何のしがらみもなく自分が作りたい舞台を表現したい人が集まる場所なのです。

そこの理解が進めば意識が違う者達が集まることはないのでは?

・演出家・劇作家は話が別かも?

 

俳優がここから活動して有名、売れて商業ベースに乗れる事は滅多にない(もちろん100%ないとは言い切れません)ですが、演出家・劇作家の立場の人となると話は変わるかもしれません。

小劇場」とは演出家が中心となって行われている舞台であるなら、その小さな活動から始まったものが実を結び外部から仕事のオファーが殺到する事は十分に有り得ます。その演出家が劇作家も兼務していたのなら尚、その可能性は高まります。

なぜなら俳優に比べて面白い台本が書ける、その台本を駄作にしてしまわずしっかり正しい方向に仕上げる、俳優を導いてくれる演出家・劇作家という存在は圧倒的に少ないからです。

その両方の能力があるなら尚更良いと言ったのはこの事情があるからです。

現に小さな劇場から活動をスタートさせて地道に積み上げていき大成して、商業ベースの仕事の話が舞い込んで来るようになった演出家・劇作家は最近でもそれなりにおられます。

私がこのブログでもオススメした「イキウメ」主宰の前川知大さんもその一人だと思います。

イキウメ」の歴史を見ても分かる通り初期の活動では小さな劇場からのスタートです。そこから見事に読売演劇大賞を受賞し複数の戯曲が映画化、小説化されたりして小劇場に留まらない展開をしています。

もちろん活動軸である劇団公演も大盛況になります。私が観に行った公演もけっこうチケットが完売している日が多く当初、予定していた日ではチケットは取れませんでした。

読売演劇大賞など著名な賞を受賞すれば信頼できる肩書きが付きます。これでその演出家がワークショップを開けばきっとそれなりの人数が集まって、新しい収入源も作ることが容易になったりもするでしょう。

このように「小劇場」から活動をスタートさせてそこで評価されて活動の幅を広げていくこと、売れていくことは演出家・劇作家であれば努力次第では可能であると示しています。

活動が評価されたら演出家・劇作家はそこから大きく羽ばたいていくことができるという意味でも、

「小劇場」とは野心のある演出家・劇作家が中心になって活動している所、というのも間違ってはいないのかもしれませんね。

そのような人達が映画やテレビドラマにも関わるようになったら質の高い作品が広く世に届けられることでしょう!

 

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