実践編③「内面的アプローチ」と「身体的アプローチ」の後編になります。前編をお読みでない方は先ずはこちらに目を通していただきますとより理解が深まります。
前回は主に「内面的アプローチ」について解説していきましたので今回は「身体的アプローチ」について詳しく書いていきます。
身体的アプローチ
別の記事でこの「身体的アプローチ」と言われるものはあまり好意的に捉えていない人もいると書きました。
それはなぜなのか?
それは悪い表現で言うなら、そうしたくもないのに操り人形のようにこのタイミングでこう動いてくださいというのが「身体的アプローチ」と言えるからです。
動きたくもないのに動かないといけない、こう表現されたならそれは確かに嫌だな・・・とも思いたくもなるでしょうが、わたくしはそんな否定的な感情は抱いていないとも同時に書きました。
という事でここからは「身体的アプローチ」について、こういうメリットがあるから適切に使っていくべきだという事を書いていきたいと思います。
どのような時に使うのが良いのか?
このアプローチはなかなか上手く役の感情が湧き出てこなくちょっと稽古が行き詰まった時に、
「じゃあこう動きながらセリフを言ってみたら?」とか、
「こう動いた後にセリフを言ってみよう」と提案するのが良いと思います。
動くというのは、それだけで内面も刺激されて大きく変化をしていきます。
単純な例として役がこのシーンでは動き回って疲れているなら、俳優も演じる前に稽古場の外なりを息が切れるくらい走り回れば簡単に役と同じ状態が作れてしまいます。
これは即効性があるという事でけっこう色んな知り合いの俳優さんがやっているのを見た事があります。
走りながら登場してくる時、たまたま裏がものすごい広い劇場だったので実際にある程度、距離をとってそこから舞台まで走って登場すればお客さんは、
「本当に長い距離、走ってきて疲れているみたい」
という感想を抱いきます。まぁ実際、本当に走ってきたから当然なのですが 笑
このように動くという事はそれだけで何の意識をしなくても勝手にその動きに合った感情や、状態になれてしまう事もあるという事ですね。
が、しかしそんな簡単な事で全てが解決するほど芝居というのは甘くないのは言うまでもありません。
しっかりと役の状況、背景に合った気持ちで台詞を言うというのは大変、難しい事だと経験者であれば実感済みだと思うのであらゆる方法を使ってなんとかできるようにしないといけません。
そこで敢えてこの動きを付け足してみて台詞を言ってみようという一つの手段を使うわけです。
台本のト書きには特に指定ないし、そんな風に動かなくても良いんだけど、動いても別におかしくはないよねというあんばいです。
その動きというのは当然、この状況でやっても不自然ではないというのが条件という事ですね。多少、説明っぽいというのはあったとしても、なんでもかんでも動けば良いというわけではないのでそこはおさえておいてください。
例えば、
上手くいかないな〜という状態に陥ってしまうシーンって大体、役が怒ったり泣いたりと感情的になるシーンに多いのでここは、
上司が部下に仕事のミスで怒っているシーンだとしましょう。
そこでその叱る上司が台詞を言う前に一枚の書類を丸めて床に思いっきり叩きつけてから言ってみる。
何か物を投げる、床に叩きつける、物に当たるという行動は人間が怒りの感情を露わにした時によく見られる動きの代表例です。
その役の感情と合った動きを敢えてするという事で、ここまで生まれてこなかった感情が湧き出てくるという事はあります。
それで何か掴めたかもしれないという感覚になれば、今度はその動きを入れず、内面で起きた変化だけを反映させて台詞を言うというのも有りです。
つまりさっき感じた感情をもう一度、再現する、前編で言った「内面的アプローチ」へと切り替えるという事ですね。
他にも「台詞の変化」という記事で書いたように、台詞を言う時に意図的に音の高低やスピード、音量の大きさを変えていくというのも良いでしょう。
このように「内面的アプローチ」では上手くいかないから一回「身体的アプローチ」に変えてみようかという風に使い分けるのが良いのかもしれません。
やはり「リアリティ」を求めるのなら人間は最初からこう動きながら喋ろうと意識する事なんてあんまり有りません。パーティ中でのサプライズなど劇中で決められた段取りがあるシーンとかでしょうかね、あるなら。
それ以外ならその瞬間の状況になって初めて、無意識に動いてしまったというのが理想です。
こんな風に「動きたくなった」と演技中に思ったのならそれに従って構いませんが、最初からこう動くと決めるのはその観点からみれば好ましくないのは事実かもしれません。
しかしそんな風に円滑に進む事は天才、才能ある俳優しか集まっていない稽古場だけだと思うので、少しでも役の心理に近づくためにも、物理的な手法を駆使していくのも仕方がない事だと思います。
こんな風に言うとやっぱり上手くいかない人のためのやり方なんだと聞こえるかもしれませんが、これで上手く演じてくれるのなら素晴らしいと拍手していいくらいです。
中にはやはりどうやっても上手くいかないという人はたくさんいます。ってかそっちの方が圧倒的に多いです、誰でもできる分野ではないので。
その日は時間かけて稽古して上手くいっても次の稽古ではまたできなくなっていると、それはそれでプロとしては失格とまで言えるでしょうし・・・その程度の実力だと稼いでいくのは厳しいです。
ここまで書いた事を読み返しても身体的アプローチで得た感情だけを胸に持って今度は演じてみるって、サラッと書いているけどそんな事をいとも簡単にできるだけで凄い、俳優としての資質があるんだなと思ってしまいます。
ここに書かれている事はどちらでもやろうと思っても、そう簡単に上手くできるものでもないとは認識した方が良いと思いますね。
つまりどっちかのやり方で上手く演じれるのならあなたは凄いって事です!!
動きが指定された場合は?
演出家から演技の出来など関係なく動きを指定される事も時はあるでしょう。
これは「絶対に変えるな!」という動きが。
本番一週間前くらいになると作品として完成形にもっていくためにそういう指定をたくさんしてくる人もいます。
もしかしたら今までそんな風に動こうとは思わなかったなんていう動きもあるかもしれません。
その場合は「なんでこの動きを指定したのだろう?」とひたすら考えて、納得のいく動機を見つけてください。それが無くただ言われた通りに動くのは厳禁です。
最悪「何も考えてないな」と演出家から見抜かれて評価が下がりますので。
動きを指定された場合はしっかりと役の状況、心情と照らし合わせて、だからこの動きをするんだと観る者、誰もが納得する演技をしてこそ素晴らしい俳優と言えます。
それができればたとえ、見た目だけはそれっぽく見せておこうという意図で動きを指定してきたとしても、ちゃんと動きに合わせて、内面も出来上がった演技をしていけば演出家の評価も挽回できるはずです。
諦めずに粘って己の演技を磨いていきましょう!
まとめ
では今回のまとめです。
演技のやり方には、
「内面的アプローチ」と「身体的アプローチ」がある。
「内面的アプローチ」とは役の心情と同じ質のものを自身の内面にも湧き上がらせて演技をする。
「身体的アプローチ」とは自身の体を、声の高低、スピード、声量を意図的に変えて、その変化から生まれる感情を元に演じていこうというものです。
「リアリズム演技」の観点から最初から動きなどを決めて演じるのは好ましくない考えもあるので「内面的アプローチ」で上手くいかないから「身体的アプローチ」に切り替えるという使い分けをするのが良い。
では今回は以上になります。最後までお読み頂きありがとうございました。
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コメント
[…] この発想は「身体的アプローチ」に近いものだと思います。参考記事→「内面的アプローチと身体的アプローチ」 […]