今回は「即興」をテーマに書いていきます。これを読めば台本が無くても演技をする上で非常に大事な部分を学べる事が分かり、さらに今後、演劇を何かしらの形で長くやっていく人であれば一生、使える知識も知る事ができるので是非アクセスしてくれた方は最後まで読んでほしいと思います。
演劇と聞いてイメージするのはやはり台本を手にして台詞を覚えて、舞台上で演じる事だと思います。が、この基礎編のカテゴリでは台本を使うことはありません。
きっと誰もがやりたい事はやはり台本使って役を貰って実際に演じる事だと思いますが、しばらくお持ちあれ。この基礎編ではその前の準備段階だと思っていただければ。
サッカーでもいきなり試合形式の練習をするなんて事はないと思います。
先ずは走り込みであったり、ボールを放り投げてインサイド、インステップで蹴る練習、鳥かごなど、
サッカーの『一部分』を切り取ったトレーニングが多いように演劇でもそういう事になります。
しかしそれが後々、生きてくる、やっておいて良かったと思えるトレーニングだからこそやっているのは当然の事です。我々が目にする舞台上では何が行われているのか、それを細かく、細部にまで渡って教えています。
ここまで書いてきた事ではちょっと退屈しているだろうなというところでしょうが、ようやく演劇っぽい事をしようと思います。
それがタイトルの通り『即興』
演劇でいう即興とは台本は無く、予め台詞が決まっていない状態で、何かを演じる事です。この台詞が決まっていない状態という感覚も演じる上では非常に大事な感覚なので是非、養ってほしいと、どこの演劇を教える場でも取り入れているものだと思います。
しかし初心者が本当に何も決まっていない状態でやると収集がつかないカオスな状態になりかねないのである指定をしてやってもらいます。
それが、
状況と目的を設定する。
演劇においてめちゃくちゃ大事なキーワードなので過剰にもう一度、強調します。
『状況と目的』
これは演劇において最大におさえておくべきキーワードです。なぜなら演劇とはそれぞれの役には目的があり、台詞とは状況に合わせて言うものだと言えるからです。
この点についてはこの記事では深く触れません。
さて本題。
台詞は決まっていませんがその状況と目的を与えてそれに沿って演じてもらいます。即興は二人一組でやってもらいます。こういう二人で組んでやる事も多いので人数は偶数が望ましいと思っています。
その状況とは、
一人は家の中、部屋に居る、その場から今は暫く動きたくない、動けない。
そしてその理由を考える。
もう一人はその外、別の場所に居る。屋内でも屋外でも構いません。もう一方の人に電話をかける。
そしてこちらはその屋内に居る人を出したい、こちらの方へ呼び出したい。
前回、日常を再現するのが俳優の仕事だと書きましたがその日常とは遠い、普段は起きない事が起きるのが演劇です。そんなただその登場人物の日常が延々と流れているお芝居を見ても面白くないですよね。だからどこかで何かしらの事件、衝突が起きドラマが生まれます。今回はその事件、衝突をやってもらおうと思っています。
その具体例として役同士が口論、喧嘩になるが分かりやすい例でしょう。役とはそれぞれ立場があり、置かれている状況があり、目的があります。それらが大きく乖離していればしているほどその役同士は衝突しやすい事になります。
一方は家に居たい、その場から動けない、もう一方はその人を家から出したい、呼び出したい、この設定で何が起きるか?もう想像できますよね。
ここでも『自分』でやってもらいます。先ずは自分からスタートという方針はここでも変わりありません。ただ一緒にやる人とは実際はまだそこまで仲を深めていなくても、友達と言えるくらい親しい間柄だとは思っておいてください。
ではそれぞれ、一方はなぜ今は家に居たいのか、或いは動けないのか、もう一方はなぜその人を家から出して、呼び出したいのか、細く、具体的に決めてください。人数は10人を想定しているので、それぞれの立場、目的で5人ずつに分かれてくださいね。
ここでアドバイスをすると、それらを決める上で重要なのは・・・、
緊急性、今じゃなきゃ駄目
「それ、別の日じゃダメなの?」と言われて黙ってしまうような甘い設定ではいけませんし、家に留まりたい側もどうしても何かに目が離せない、ここにいなきゃいけない設定を考えてください。
それを考える上でのポイントは、
目的が達成されなかったら自分はどうなってしまうのか?
という発想に着目してみてください。この場合はもしも自分が今、ここから離れてしまったらどんな被害が発生するのか?逆ではもちろんこの人を今、家から引きずり出さないと自分にどんな被害が出る?です。
その被害が大きければ大きほど、切羽詰まっているほど良いはずです。
もう一つ、ルールがあります。
相手の言う事を全て受け入れてください。
始まるまで分からない向こうが決めた設定を受け入れるのはもちろんですが、例えば相手が「あなたには兄がいる」と言ってきたらそれを否定、「俺に兄なんていないけど」と言わずそれを受け入れた上で即興を進めてください。『自分』スタートという事ですが、本当に兄弟はいなかったとしてもそこはそういう事にしておいてください。
舞台上では何が起きるか分かりません。相手が台詞を間違える、飛ばしてしまうなんて事もあるでしょう。そういうのに対応するためにも、こういう柔軟性、融通を利かせてください。
それに面白い物語とは何かを受け入れたからこそ始まります。久しぶりに学生時代からの友人から電話がかかってきて、会う事になった。それを拒否してしまったら何も始まらないと思いませんか?
注意するべき点を言いますと、たまに負けず嫌いの方が陥る事なのですが、つまり部屋に出てしまったら負けとか、諦めたら負けとか勝敗を決するためにやっている訳ではないのは頭に入れておいてください。
相手とのやり取りの過程で心が動いたと感じたのならそれに素直に従って部屋から出る、分かったもういいと諦めてもらってけっこうです。むしろそっちの方が好都合です。『心が動いた』という感覚は最初の頃はそうそう味わえるものではないからです。
一番、困るのは私は、俺は「そう簡単に心は動かないぞ」という状況、目的とは関係のない出処の感情が介入して、無理をして演技をする事だと思います。演じる上では関係のない私情と言っていいかもしれません。
こういう場面が台本にあるなら、最後はどちらかが折れて次のシーンへ行くという事が多いです。そうしないといつまでも物語が進まないという都合もありますし。ですので頑なに拒まず、相手の言う事にも耳を傾けて、心の動きに素直に従うという準備もしてやってもらえればと思います。もちろんそう簡単に動いてもらっては困るのですが。
その一例。
では、最後に実際にこの設定で即興が行われた例を一つ紹介しましょう。しかしもう何年も前の事なので完璧に同じというわけではありません。ちなみに立ち位置ですが二人は目が合わないように背を向け合って、距離も端から端まで離れてやるのがいいでしょう。
部屋に居たい、出たくない側が考えた設定。
・大学生の自分は昨日、酒で酔っ払った勢いで家の近くの路上に停めてあった自転車を隣を走る電車の線路内に放り投げてしまい、電車をストップさせてしまった。それが今、ニュースで報じられており警察が誰がやったのか真剣に捜査している。
今になってとんでもない事をやらかしてしまったと反省しているも、警察に捕まってしまったら実名報道されて、大学卒業後の就職にに大きな影響を与えると考える。できればこのまま捕まらないでやり過ごしたいというのが本音。当然、今、外に出る気分にはなれない。
ニュースで報じられて、決して小さくない犯罪を犯したため、外に出る気が起きないというのは納得いく事だと思います。しかもどうやら事故現場は家の近く、昨日の今日で今、外に出たら捕まってしまうかもしれないという恐怖心もあります。何より捕まってしまい前科がついたら就職にも多大な影響がある。将来がかかっているという事でリスクがある行動は極力、避けなければならないという余程の事がない限り、少なくとも今日は外出は控えるという確固たる理由もありますね。
一方、そんな人を家から出したい、呼び出したい人が考えた設定。
・今日は一緒にライヴを観に行く予定。こっちはもう会場の目の前まで来ている。しかし約束した時間になっても来ないので電話した。チケットはどうやら家に居る人が二人分を持っているので、一人だけでみてというのは通用しない。少なくともそちらが観る気はなくても、チケットは持って来いとは強く要求できる。
シンプルですね。有効期限が今日までのライヴチケット、こっちは既に会場まで着いているようなので、ここまで来てライヴも観ずに帰っては嫌に決まっています。早く来いと堂々と言う事ができるでしょう。
この二つの設定を比べてみて、被る被害の深刻さを考えれば家に居る側が正直に話せばもしかしたら気を遣い、分かったと説得する事はできるかもしれません。が、その日は外に出てもバレずに捕まらない可能性も十二分にあります。それに対して外に居る側はその人が来ないとせっかく会場まで来たのにライヴが観られないという被害が確定しています。この点を上手く突いてせめぎ合うのが見所だと思うのですが、この即興の結末は意外にも早く心が動かされます。
実はこの二人はそれなりに仲が深く互いの好みも把握しているようでした。そこを上手く利用して、その観に行くライヴとは家に居る側が熱狂的と言っても言いくらい大好きなアイドルグループだったそうです。
そう言われた瞬間に「あぁ〜そうか〜そうくるか〜」みたいな顔をして早々にもう心が持ってかれていて、後は席もめちゃくちゃ良い席などの好条件を並べ立てて見事に外へ出させたのです 笑
それぞれのグループで順番を決めて、直前まで誰とやるかは分からない状態でやるのですが、たまたま知り合い同士が当たりこのような展開になりましたが、外に出た人は実生活で優先しているものをちゃんと即興でも忠実に従った点は良いと思います。そこまで好きなんだとは思いましたが、気持ちは分からなくはないでしょう。
一方が折れた例を紹介しましたが、これ以上やってもしょうがないと判断したらそこまでと言い止める場合もあります。そっちの方が多かった記憶がありますね。そこは即興なので台本に書かれた事のように綺麗に話は進みません。
まとめ
この即興を通して学んでほしい事は、実際にやってみれば分かりますが非常に疲れる、エネルギーがいる即興となっております。
相手と状況、目的の違いから衝突して考えを変えてもらうところまでいく、台本を貰いそのようなシーンがあれば同じくらいの体力、エネルギーを使わないとおかしいと思ってください。楽に演じて相手の心を動かせるとは思わないように。
そして演技はこの目的と状況に沿ってやるものであり、それらを把握しておけば台詞が無くても演劇のワンシーンとも言えるものはできると。
そして、最初の方にちょろっと言いましたがもう一つ覚えておいてほしいのは、相手が何を言ってくるか分からないドキドキ感です。きっとこの即興でそういう風に緊張した人もいると思います。この気持ちを台本があり、台詞も誰が何を言うのか分かっている状態になっても持ち続けて演じてほしいと思っています。この辺また来たるべき時が来たらもっと詳しく書きます。
では今日はここまで、最後までお読み頂きありがとうございました。
コメント
[…] 「即興」の記事でも演じる上で決めてもらいたい事で、似たように目的を持ってほしいと書きました。 […]