今回は台本の読み方、分析編の四回目という事で「前状況」について解説をしていきます。
これを読む事によって台本の読解、分析の真髄というべきものが掴めると思うので是非、最後までお読み頂けたらなと思います。
それでは本題です。
前状況とは?
先ずはこの「前状況」とはなんぞやという事になると思うのですけど、こんな日本語は存在致しませんので一部の演劇人のみで通用する造語だと思います。
なぜ一部かというと、日本の演劇教育の統一性の無さからこの言葉を知らないまま長い年月、演劇活動をしている人もいるだろうと推測されるからです。
それは置いておいて、どういう意味かと言いますと、
台本では描かれていない空白部分、シーンが始まる前の事を決めていこうという作業です。
前回は台本に書かれている情報を元に役作りをしていこうという話でしたが今回はその逆で、台本には書かれていない事を俳優自身が考えて、芝居に深みをもたせていこうという話です。
では、どういう所でそれが必要になってくるのか?
1、このシーンが始まる前、役は何をしていたか?
台本の冒頭では長いト書きの後に台詞が始まる場合が多いですが、例えばある役がドアを開けて、
「おはようございます」
と、言いながら部屋に入ってくるところからスタートした場合・・・。
・このドアを開けた役はどんな手段でこの部屋まで来たのか?(車、バス、自転車、徒歩・・・)もっと遡れば家では外出する前にどんな準備、作業をしてた?そもそも真っ直ぐここまで来たのか?寄り道はしていない?・・・などなど。
考えればそのような過程を経てここまで辿り着いたのは当然だとわかると思いますが、さぁどれだけの俳優がこんな事を考えているでしょうね? 笑
すんごい面倒な作業だと思いますし、そんな事、決めたって客には伝わらないでしょって思ってやる気もいまいち起きないかもしれませんがプロフェッショナルの俳優だったらそんな細かい、どうせ客には分からない、気づかないような部分にも拘っていくはずです。
神は細部に宿るって言いますしね。
ここでも好き放題、決めて良いわけではもちろんなく前回、話したような台本の情報を元に決めていってください。
例えば・・・、
ここは職場、とある飲食店の事務所である。なら駐車場がない可能性もあるので車では来れないかも。
この役の年齢は学生ではない、最低でも20代後半女性で、アルバイトで働いているからそんな家から遠くないと思う。
なら自転車、徒歩がイメージに合うんだけど、一応バスも全然あり得る・・・。
と、いうように聞けば誰もが納得するロジックを立ててください。
どれだったとしても違和感はないというところまで来たら、後はその俳優のチョイスで、独自の像を作り上げていってください。
ちなみに役の年齢もおおよそは推測できても、正確には分からない事も多いですし、この飲食店ってどのくらい広い?駐車場はあるの?という所に至っては演出家に意見を求めてもいいような事です。
そこの判断もこの台本の舞台は都会なのか、田舎なのかによって違うと思いますし、俳優の間で決めていいと演出家から言われたのであればそういう全体に関わる事は共演者が集まって決めるという必要も出てくるかもしれないですね。
ここまでを読んだだけでも決めなければいけない事がたくさんあると分かっていただけたと思います。さてお次が・・・、
2、シーンとシーンの間、その空白の期間を埋める。
要領は1と変わりありません。
物語が始まった後も何日、何ヶ月という時が経つ事は多いです。
第一幕一場から二場に移った時、明らかに数日間の時間が経過していると読み取れたらその間に何が起きたのか考えてみましょう。
場所移動で数時間しか経っていなくても、ではその移動手段やどんな面持ちでここまで来たなど、積み重ねていかなければいけない事はあるはずです。
そう、この空白の積み重ねがそのシーンの芝居を深く、濃いものにしていくのだと思いますね。
その手助けとしてここで一つエクササイズをご紹介。
それが・・・、
・その台本には描かれていないシーンを実際に即興で演じてみる。
特に事件、事故が起きたわけではない普通の日々を過ごしていたという場合もあるでしょうが中には、これ一つのシーンに出来るんじゃないか?というような出来事が台本外であったと言及されるパターンもあります。
その一例。
「どうしたの?機嫌悪そうだね」
「昨日、お母さんがいきなり来て、いつまでもアルバイトなんてしていないでしっかり就職したらどうなのとか、いい相手はいないのとか聞いてきて、もう最悪だったの」
この台詞から昨日、役の母親が娘の自宅を訪れてきたという情報が始めて出てきましたが、そのシーンは台本にはありません。
しかしそのセリフの内容から想像を膨らませるとこの後、口喧嘩なり一悶着あったのは容易に想像できますし、そういう衝突は演劇において一つの見せ場です。
描かれれていないシーンだけどドラマチックでかつ、より具体的にどんな事があったのか決めた方が良いと思われるようなものは俳優陣たちが実際に演じてみてそのイメージを固めていきましょう。
役の母親というのが台詞のみの登場で実際に出てくる事はないのなら共演者が協力してあげてください。
その場合は娘の役の俳優がこんなお母さんだという自分が作り上げたイメージを伝えてあげてください。
即興なので、あまりにも役とはかけ離れた、逸脱した言動はしないように注意してくださいね。
ここでどれだけ俳優がこの役を自分の中に入れられているのか確認できるかもしれません。
なかなか難しい事を要求していますが、台詞なんて無くてもあなたが役のことを理解していればシーンを成立させる事は可能なはずですので挑戦してみましょう。
ここで「基礎編・即興」で書いた内容を応用するのもいいでしょう。
台詞がない即興の場合、役の目的をはっきりさせる事によって引き締まった良い即興ができると思います。
最初は自分としての即興でしたが、いよいよ役として即興をしてもらうという難題がやって来ました。
こういう俳優陣、演出家、スタッフが自由に決められる部分をどうするかでたとえ何百回も上演されてきた台本だったとしてもその劇団、団体の色というものが出てきて差別化できるんじゃないでしょうかね。
こうしてみると俳優にもクリエーターとしての資質が少なからず必要で、台詞を覚えて綺麗に言えれば、それだけでよいわけではないと僕は痛感しましたね。
まとめ
では今回のまとめです。
今回の俳優がやるべき作業として「前状況」を決めると書きました。その前状況とは・・・、
台本の最初のシーンがが始まる前、シーンとシーンの間に役は何をしていたか?またどうやってここまで来たのか?移動手段などを決める。
また、
セリフから台本には描かれていないが、演劇のワンシーンにもなり得る出来事が起きていると読み取れる場合は、そのシーンを即興でやってみる、
という事も有効になっていきます。
この空白の期間を埋める事によってそのシーンの深みが増すという事にも繋がりますので是非ご自身の演劇、俳優活動にも役に立ててください。
では今回は以上になります。最後までお読み頂きありがとうございました。
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コメント
[…] 他に以前の記事で書いた前状況、二人はどうやってその場に来たのか?なぜ拓実は先に居るのか?二人は待ち合わせていたのか?などいくらでも考えるべき事はありますね。と軽く今ま […]