【人間が隠している本音】台本の読み方、分析「サブテキスト」前編

今回のテーマは「サブテキスト」です。

このキーワードは基礎編「ステータス」の記事でも最後にちょろっと出てきたのでまだ読んでいない方は最初にこの記事を読んでからこちらに戻ってくるとより理解が深まるので是非、読んでみてください。

この記事からは台本の一ページ、役のセリフ一語一句に目を通して本格的にこの役の心理を解き明かしていく作業に入ります。今までの作業は役、台本の根本的な部分、大枠を決めるといったところでしょうか。

その細かいところ、深い所まで台本、役を理解できないとお悩みの方はこの記事にその悩みを解決するヒントが書かれていますのでお見逃しなきよう。では中身に入っていきます。

「ステータス」をおさらい

 

ではこの記事でも簡単にその「ステータス」について触れておきましょう。

この記事ではそれぞれの役にはそのステータス、身分、社会的地位の高さが決められていると書きました。

シンプルな例としてある職場では当然、上司、部下という関係性で誰もが働いておりその中で誰が一番ステータスが高いのかは肩書を見れば分かりますよね。

そのステータスの違いで人によって態度が異なるという現象も出てきます。その双方の態度の違いで観客はこっちが高くて、こっちが低いんだなと判断できるわけですが・・・。

人間関係とはそんな単純なものではないとも終盤に書きました。

外面的ステータスと、もう一つ、内面的ステータスというのも存在すると。

外面的ステータスでは正社員とアルバイト、もちろん正社員の方がステータスは高いわけですが、実はその正社員、仕事がてんで出来なくていつもアルバイトに任せっきりでアルバイト達は呆れてばかりいる・・・、

心の中では、

「なんでこんな奴より給料低いんだろう・・・」

と思っていたらステータスは逆転してしまう、そこまではいかなくても対等くらいにはなるかもしれません。

外面的ステータスと内面的ステータスでは大きな隔たりがあるという例です。

真実というのは隠れている、表にはなかなか出てこないというようにどちらが真実に近いかと言われたらやはり裏で隠れている内面的ステータスの場合が多いです。

こちらが本音とも言えると思います。

ではなぜその本音を出す事ができないかというとやはり社会的地位の違いから、他にも人として他人の悪口を、ましてや本人に直接言うなんていうのは憚られるという社会人としての品位も保ちたいので、そうそう大人が本音をぶちまけるという事はないはずです。

この事から何が言えるかというと声に発している言葉というのは本音ではない場合が多いという事です。

では本音はどうなの?という隠れている部分を、今回のテーマである「サブテキスト」と言います。

本音の部分をサブテキストと呼ぶ

 

このサブテキストを汲み取っていくのが俳優の仕事です。

相手役とやり取りをする時もこのサブテキストを胸に抱えながら演じていく事になるということですね。

その本音けっこう汚い、過激な言葉になる事が多いとも言っておきます。

上記の例でも「なんでこんな奴より給料が・・・」というようにそれ本人の前でも言えますか?と思うくらいですよね。

でも皆さんも正直、思い当たる節はあるのではないでしょうか?

このような関係性が見えてきたら演じている方も、観ている側もその関係性を知っているのならハラハラドキドキしてしまいますよね。この本音を隠した上での探り合いも演劇の見どころの一つです。

では一例を出してどんな感じで読み進めていけば良いのか解説していきましょう。

このシリーズを書く上でどこかの回で戯曲の一場面を引用した方が良いと思ってはいたのですが、今回は自作の会話文を引用します。

※なぜそんな事ができるのかはいずれ別の機会にお話しできたらなと思っていますが先ずはこのテーマに集中しましょう。

ある会話文を使って実際にどのように考えていくかやってみます。

 

「よっ」

そう挨拶をして神崎浩介《かんざき こうすけ》が隣に座った。

「おめでとう。上げた曲、なかなかの再生数じゃん。俺も一応メンバーの一人として嬉しいよ」

「こんなに早くあれだけ再生されるとは思わなかったけど、あのクオリティだったら当然だろう」

「確かに。それは認める。そのドラムを俺が叩いた、俺は言われた通りに叩いただけだからそこまでじぶんごとのように思えないけど、やっぱりちょっとは自慢したくなるくらいは嬉しいよ」

「どう思っている?」

「えっ、何が」

「その、自分のバンドオリジナル曲が一定の評価をもらって」

「う〜ん、さっきも言ったけど、俺はいわゆるサポートメンバーみたいな位置付けだし、すごいとは思うけど、それをあまり俺がでしゃばるのは違うかな。逆に拓実はどうなの?」

「俺? 俺は……この勢いを絶やしちゃいけないと思う」

「……それって、どういう、」

「勿体ないなってことかな。他人が作った曲をコピーして演奏上手いって言われるのとはわけが違うでしょ。だから勿体ないって思う」

「なるほどね、それは分かる。でも現実問題、1曲だけ評価されてもそのクオリティの曲をあと何十曲って作っていかなきゃいけないと思うと気が滅入らない?」

「そんな弱音吐いてどうするんだよ」

「……俺は、申し訳ないけどもうそんな長く協力する事はできないよ。たとえ拓実がその気でも」

「それって、どういう、」

「だから、俺は学生時代の思い出として拓実のバンド活動に付き合ってきたけど、それも卒業するまでの話って事。厳密に言えば来年から卒業後の進路を本格的に考えないといけないし、もうそんな長くないでしょ」

どこかの木にとまっているカラスが二羽、カーカーと絶え間なく交互に鳴いている。

「浩介は勿体ないって思わないってこと?」

「まぁ、そうね。だって厳しい世界でしょ」

「それでも上手くいっているんじゃないかって思うけど」

「ここまではね。磯村君も女の子に人気あるし、それでいて初のオリジナル曲が一週間で数万再生されたってなったらそういう気持ちも湧いてはくるけど、やっぱりそれでも厳しいって」

「浩介は卒業後はどうするの?」

「俺? 俺は……俳優になりたい」

「はっ!? 俳優? そんなの初耳だけど」

「だって今、初めて話したもん」

「……俳優ってお前、芝居なんてできるの」

「今はワークショップに参加して勉強しているんだ。実は事務所にも一時入っていたんだけど、そこの事務所がとんでもない事務所で今年の春に無くなった。理由は社長が夜逃げしたから」

「だったらなんで音楽なんてやってたの?」

「それは単純に芸の幅を広げるためだよ。オーディションでも楽器ができるっていうのは良いアピールポイントになるし」

「さっき音楽の世界は厳しいって言ったけど、俳優の道も音楽と同じくらい厳しい道なんじゃないの」
「もちろん、それは分かっている。音楽と俳優、俺はどっちを選ぶかって聞かれたら俺は俳優の道を選ぶ。ただそれだけ」

「そんな痛い目をみてもか」

「あの件は俺も浅はかだったと思う。とにかくどこでも良いから事務所に所属したいって思っていたし。今度はもっとよく考えて選ぶつもり」

「そうか」

少しの間、拓実が言葉を続ける。

「だったらなんでここの大学に入ったの?」

「俺も同じ質問を拓実にぶつけるよ」

また、ちょっとの間。

「俺にこんな話をしているって事は、まさか毅にもしているの?」

「あぁ、毅こそ多分、無理でしょう。そもそもなんであいつの趣味がベースなのかも最初は疑問に思っていたし」

「見た目で判断するなって。でも機材に関してはめちゃくちゃ詳しいし、拓実もそれで助かった部分はあるでしょう」

「それは認める。それに関しては毅の勉強している分野に通じるものはあるからだろうな。でも、まぁ、聞かなくても毅の滲み出るオーラから音楽の道に誘うのは正直憚れる」

「本当に趣味として心から楽しんでいるって感じだしね。あの無垢な心で荒波に耐えられるかって言われたら、おそらく無理だろうね」

「野心なんてないだろうしな」

「肝心の磯村君はどうなの? とりあえず彼さえ説得できたらなんとか卒業後もやっていけそうな気はするけど」

「磯村には年末、実家に帰った時に会って話してみる」

ざっとここまで読んでみてどこをおさえるか?

 

俳優に関する記事なので俳優の夢を明かした会話を選んでみたわけなのですが、それは置いておいて解説を。

もうけっこう前に書いたもので忘れている部分もあるので、ちょうどまっさらな気持ちに近い状態で読めたので、パーっと読んでみて僕の思った事をざーっと書いてみます。

・このシーンが始まる前、二人はそれなりに長くバンドを一緒にやっているみたいですね。二人は大学生。そしてバンドオリジナル曲をインターネット上にあげて一週間で思った以上に(数万回)再生された。

場所はどこか?屋外ではありそうだが(カラスの鳴き声〜のト書きで)大学内?、時間は夜という事はなさそう。

・バンドのバートは神崎がドラムで、もう一人の毅という人がベース。そして拓実ともう一人、名前だけ出てくる磯村、この4人編成でバンドをやっていると分かるがこの二人がどのパートなのかは分からない。が、ドラム、ベースときたら残りはギターとボーカルが代表的だ。ならそのどっちかになると思うのが自然。拓実役の人は自分はどのパートのつもりで演じるのかでだいぶ違う。ただ会話をよく読んでみると、そのヒントとなるものはいくつか書かれている。

このように会話をじっくり読む前に着目するべき点をいくつか挙げてみましたが、こういう切り取ったワンシーンを読み解く上で先ず重要なのは場所時間ですね。

その点をどう設定するかによって全然、芝居の方針は変わっていきます。

他にも年齢がありますが今回はそこは大学生と予想しやすい形で絞られています。

そして二人はバンドを、しかもある程度長くやっているという関係性が既に出来上がっています。

他に以前の記事で書いた前状況、二人はどうやってその場に来たのか?なぜ拓実は先に居るのか?二人は待ち合わせていたのか?などいくらでも考えるべき事はありますね。と軽く今までの台本分析で書いた事にも触れました。

と、ここまでの台本の読み方、分析でも書いた事を先ずは書いてみました。

今回は長くなるのでタイトルの通り前編・後編に分けたいと思いますのでここで一旦、切りたいと思います。

では、次回まで少々お待ちください。

 

コメント

  1. […] 「サブテキスト」前編をお読みくださいませ。 […]

  2. […] それでは他にはどんな時か?今回もサブテキストの回から引用しているある二人の会話を使ってみてみましょう。 […]

  3. […] 「サブテキスト」前編 […]

  4. […] 参考記事「サブテキスト」 […]

  5. […] 台本分析のカテゴリではこのサブテキストについて解説しておりますが、けっこう難解な領域だと思っております。 […]

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